和歌山県立医科大学第1外科

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肺癌に対する抗癌剤感受性試験 

■抗癌剤感受性試験に基づく肺癌の抗癌剤治療について

円癌の治療の種類

 癌の治療は,大きくわけて5つの種類があります。手術療法,抗癌剤治療,放射線治療,免疫療法,対症療法の5つです。

 手術療法,抗癌剤治療,放射線治療,免疫療法の4種類の治療は,癌を治す,あるいは癌の進行を防ぐために行われます。このうち,手術療法と放射線治療は,それぞれ手術した場所,放射線を当てた場所の癌だけに効果があるので局所療法と呼びます。これに対し,抗癌剤治療と免疫療法は,通常,体全体に効果があるので,全身療法と呼びます。癌が転移をしている場合には,このような全身療法が重要になります。
 対症療法は,癌が原因となって現れる症状,例えば痛みなどの苦痛を取り除くために行われる治療で,この治療によって癌自体が治ることはありませんが,通常,他の4つの治療と平行して行われます。治る見込みのない癌に対して,対症療法のみを行う場合があり,これをBest Supportive Careと呼びます。
 これらの5つの治療,特に前者の4つの治療のうちから必要に応じて選択し,組み合わせて癌を治療していくことを,集学的治療と呼びます。肺癌においては,通常,この集学的治療が行われます。

■肺癌の種類

肺癌には大きく分けて2つの種類があります。一つは,抗癌剤や放射線が良く効く小細胞肺癌。もう一つは,抗癌剤や放射線の効きにくい非小細胞肺癌です。肺癌のうち,多くはこの非小細胞肺癌に分類されます。小細胞肺癌は,進行が早く,転移しやすい一方,放射線治療にも抗癌剤治療にも良く反応するので,手術が行われることはあまりありません。非小細胞肺癌では,手術で取ってしまえると診断された場合は,通常まず切除手術を行います。

■肺癌では抗癌剤治療の重要性が高い

 小細胞肺癌では,もちろん抗癌剤治療が非常に重要です。抗癌剤の効きにくい非小細胞肺癌でも,手術したほうが良いと診断される人 (手術適応がある,と言います) の割合は全体の20%から30%ぐらいと言われています。従って,手術適応の無い大部分の人は,抗癌剤治療を受けることになります。さらに,癌は手術を受けた後でも再発することがあります。再発した場合は抗癌剤治療を受ける必要が出てきます。肺癌に対する抗癌剤治療の役割は極めて大きいと言えるでしょう。取ってしまえると診断された場合は,通常まず切除手術を行います。

■非小細胞肺癌は抗癌剤が効きにくい

 非小細胞肺癌では,抗癌剤治療が有効な人の割合はそれほど高くありません。治療に使われる抗癌剤の種類は10種類以上もあります。通常,一つの薬で治療するか,2, 3種類の抗癌剤を同時に使用して治療を行います。抗癌剤の組み合わせによって治療の効果は様々ですが,効果の弱い治療では,使った患者さんのうち,3割位の人にしか効かないこともあります。

■効く抗癌剤は人によって違う

 現在行われている非小細胞肺癌に対する抗癌剤治療には,多くの種類があります。ほとんど全ての人に効くような決定的に有効な治療方法がまだ見つかっていない (標準的治療が確率していない) ため,昔から,色々な治療方法が試されてきました。これらの治療の有効性は,臨床試験という方法で調べられています。より多くの人に効く治療方法を求めて,現在も色々な研究が行われています。

 ここから,少し難しい話です。
ここで,問題となるのは,どの抗癌剤が効くのか,人によって違うということです。同じ日本人でも,みんな顔も違うし性格も違います。それと同じで,肺癌も患者さん一人ずつ効く抗癌剤の種類が違います。 例えば,治療法Aが30%の患者さんに有効で,治療法Bが50%の患者さんに有効であったとします。単純に考えると,治療法Aより治療法Bのほうが優れています。しかし,治療法Bが効かない50%の患者さんのなかにも,治療法Aが効く患者さんがいます。また,治療法Aが効く30%の患者さんのうちにも,治療法Bが全く効かない患者さんもいます。
 何%の患者さんにその治療法が有効かという,30% とか50%とかの数字を奏効率と呼びます。奏効率の高い治療は,一般的には良い治療と考えられます。確かに,医師の側から見れば,効く可能性の高い治療であるということではあります。しかし,治療を受ける患者さんの側からみれば,自分自身は一人しかいませんから,その最も奏効率の高い治療が,自分に最も適した治療かどうかわからないことになります。
 通常,抗癌剤治療は,やってみないと効くかどうかわかりません。しかし,もし予め,自分にどんな抗癌剤が効くのかを知る方法があり,効く抗癌剤だけを投与してもらえるのであれば,治療を受ける上で,とても助けになると思われます。

■抗癌剤感受性検査って何?

患者さん自身の癌にどんな抗癌剤が効くのかを調べるための検査を抗癌剤感受性検査と言います。通常使われている方法では,患者さんの癌を一部切り取ってきて,試験管の中に入れ,色々な種類の抗癌剤を投与してみます。そうすると,効く抗癌剤を入れた試験管では癌が死んでしまいますが,効かない抗癌剤を入れた試験管の中の癌は生き残るので,有効な抗癌剤と無効な抗癌剤を区別することができます。
 残念ながら,現在行われている抗癌剤感受性検査はまだ,効く抗癌剤と効かない抗癌剤を100%区別することはできません。理由は難しいので説明しませんが,技術的な理由から,現在行われている抗癌剤感受性検査は,どの抗癌剤が効くのかを調べる検査ではなく,どの抗癌剤が効かないのかを調べる検査になっています。
 言いかえると,抗癌剤感受性検査を受けて,この抗癌剤が効かないよ,と判定されたら,その抗癌剤は使っても絶対に効かないということです。逆に,効きそうだと?サ定された抗癌剤を使った場合でも,効?ゥないことがあります。しかし,抗癌剤感受性検査で有効と判定された薬だけを使って治療することで,無効な抗癌剤治療を受ける危険性が半分以下になることがわかっています。

■抗癌剤治療の副作用について

抗癌剤は一般的に,癌細胞を殺して癌を治す薬です。癌は,元々正常な自分の体の細胞が変化してできたものなので,癌細胞を殺す薬である抗癌剤は,正常な自分の細胞にもある程度は毒として作用します。
 癌は正常な体の細胞と違って,活発に増殖しています。抗癌剤は,この違いを利用して,活発に増殖している細胞に作用して殺すように作られています。従って,体の中に,癌細胞と同じ様な活発に増殖している細胞があれば,癌と同じように障害を受けてしまいます。これを抗癌剤の副作用といいます。血液を作るもとになる細胞,髪の毛の細胞,腸の細胞などは,癌ほどではありませんが活発に増殖しているため,障害を受けて,貧血,白血球減少,脱毛,下痢などの副作用が出ます。また,皮膚や爪なども副作用が出やすいところです抗癌剤治療を行う場合は,この副作用があまり強く出ないように抗癌剤の量を加減したり,強い副作用が出る場合は休憩を入れて回復を待ったりしながら,治療を行っていきます。

■効かない抗癌剤を使っても副作用は同じ

 とても問題なのは,もし,効かない抗癌剤を使ってしまった場合でも,正常な体の細胞には副作用が生じるということです。もちろん,抗癌剤の効く,効かないに個人差があるように,副作用の強さにも個人差がありますしかし,抗癌剤の効果ほども,副作用の強さの個人差は大きくありません。
 従って,もし効かない抗癌剤で治療が行われた場合は,癌が良くならない上に副作用で体が弱り,かえって寿命を縮めてしまったり,副作用のために次の治療が遅れ,癌を進行させてしまったりする危険性がありますこのような不利益をできるだけ避けるために,抗癌剤感受性検査は有意義な手段といえます。

■抗癌剤感受性試験の種類

 抗癌剤感受性試験には色々な方法があります。広く用いられているのは,SDI法,CD-DST法,HDRA法の3つです。それぞれ色々な特徴がありますが,いずれも,癌細胞を採ってきて,抗癌剤を投与してみて調べる方法であること,どの抗癌剤が効くのかを調べる検査ではなく,どの抗癌剤が効かないのかを調べる検査であることについては,共通しています。

■組織培養法抗癌剤感受性検査 (HDRA)

第一外科では,以前よりHDRA法 (組織培養法抗癌剤感受性検査) を肺癌に適用するために研究を行ってきました。
 HDRA法の特徴は,他の感受性試験に比べて,検査の成功する確率が高いということです。十分な癌の細胞を採ることができれば,ほぼ100%の確率で検査が成功します。癌の細胞は,体から取り出して試験管に入れて生かしておくことが難しく,これまでは,抗癌剤感受性検査がうまくできる割合が十分でなかったのです。HDRA法の開発により,抗癌剤感受性検査は,十分に臨床応用できる確かなものになりました。
 抗癌剤感受性検査をするためには,癌細胞をある程度たくさん採ってくる必要があります。そのためには,簡単な手術が必要です。せっかく手術までして検査を受けるのですから,検査は是非とも成功して欲しい,と思うのが当然です。ですから,我々は,抗癌剤感受性検査の方法として,HDRA法を用いています。HDRA法を始め,全ての抗癌剤感受性検査はまだ,健康保険の適応がありません (SDI法は高度先進医療として認められています)。従って,HDRA法の検査費用は全額患者さんの自己負担になります。もっとも自己負担になるのは検査そのものだけで,それ以外の全て,検査のための入院費や手術の費用などは通常の保険が適用されます。

■HDRAを目的とした内視鏡手術

 第一外科では,HDRAのための癌細胞の採取を,内視鏡手術を用いて行っています。この手術は,癌を治すために行われる通常の手術とは異なり,手術をしたからといって癌が良くなることはありません。また,HDRA検査に十分な量が得られれば良く,癌を全て取り除く必要もありませんので,内視鏡を用いて,小さな創で行うことができます。内視鏡手術には,胸腔鏡手術と縦隔鏡手術があります。胸腔鏡手術は,肋骨と肋骨の間の1 cm程の長さの創3つから内視鏡を胸の中に入れて手術します。縦隔鏡手術では,胸の前の骨 (胸骨)の上の3 cmぐらの創から内視鏡を胸の中に入れて手術をします。手術は,どちらの場合も全身麻酔で行います。手術の時間は1時間ぐらいです。入院が必要です。

■HDRA結果に基づく化学療法

 HDRAの結果が出るまでに,10日から2週間位かかります。それまでの間に手術の創は治って,抗癌剤治療ができるようになります。抗癌剤治療は通常,外科ではなく内科で行われます。HDRAでは,現在10種類までの抗癌剤の検査ができますが,採取できた癌の量に応じて検査できる抗癌剤の数は異なります。検査された薬剤のうち,有効と判定された抗癌剤を用いて抗癌剤治療が行われます。
 検査された抗癌剤が全て効かないと判定されることもあります。検査で効かないと判定された薬は効きませんから,この場合は,検査が行われていない他の抗癌剤を使って治療が行われています。

■終わりに

 肺癌は現在,日本の男性の癌による死亡原因1位の疾患です。日本は,他の国に比べて,喫煙がほとんど野放し状態になっており,肺癌の発生率が高いことも一つの問題です。このような状況を改善することも非常に大切であると我々は考えています。一方,肺癌の抗癌剤治療の成績が未だ十分でないことも大きな問題です。我々は,外科医にできることの一つとして,内視鏡手術と抗癌剤感受性検査により,抗癌剤治療の成績の向上に貢献していこうと考えています。

 

 
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