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DIARY

医師日記

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2024年9月15日の日記|上松耕太

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マドリード、プラド美術館のラス・メニーナスに17世紀ハプスブルグ家、フェリペ4世夫妻、マルガリータ王女、宮廷の人々、画家ベラスケス自身が描かれている。マルガリータのドレスや犬の毛並みなど近くで見ると荒い筆致だが遠くからみると絹や毛並みの質感がなめらかに描かれている。中央の少女が当時5歳のマルガリータ王女、彼女は政略結婚でウィーンに輿入れした。彼女の孫がマリアテレジア、ひ孫がフランス革命で斬首されたマリアントワネット。フェリペ4世夫妻はマルガリータを寵愛し彼女の絵画をいくつもベラスケスに描かせている。彼は子供の絵が得意だった。ハプスブルグ家は近親結婚を繰り返し面長の特徴的な顔貌が引き継がれ王女にもその特徴が窺える。その形質はマリーアントワネットに受け継がれた。マリアントワネットの肖像画は特徴を抑制気味、やや美化されているが、断首台に連行される彼女のダヴィッドによるイラストに、短く切り込まれた髪とやや突き出た顎が、冷酷に意地悪に描かれた。フェリペ4世夫妻は、マルガリータ王女の後ろにある鏡の中に映り込んで、フェリペ4世自身の特徴的な面長の顔貌が伺える。

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青い血を求めたハプスブルグ家は近親結婚を繰り返し劣勢遺伝子が発現し夭逝する子も多かった。5歳までは神の子だった。夫妻の息子、カルロス2世も出生直後より非常に病弱であった。敬虔なカトリック教徒だったフィリップ4世は自らの不道徳を懺悔したが行動は戒めなかった。太陽の沈まぬ国スペイン帝国ハプスブルグ家は斜陽。左の大きなキャンバス越しにこちらを見つめるのが、王の画家にして画家の王ディエゴベラスケス。彼はアンダルシア、セビーリャ出身で、フィリップをはじめ、マルガリータ、カルロスと宮廷人を描きまた、スペイン王宮の要職を数々務めた。ルーベンスに師事しその後キャリアも輝かしい、成功者だった。飲んだくれで晩年破産したが妻を愛し続けたレンブラントや、殺人罪で指名手配中逃亡先で死んだカラバッジョに親近感を覚える。レンブラント、カラバッジョは影と光の画家。漆黒の陰に浮き出るひかりが際立ち、影あって奥行きが深まる。光に溢れる現代と違った闇と影の迫力を感じる。

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向かって右には骨形成不全症のドイツ人と小人症のイタリア人侍女が描かれている。当時の絵画中にはこうしたハンディキャップを持った人々が時に思慮深く、生き生きと描かれている。diversity(対義語はuniversity)が尊重されていたのだろうか。

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愛を浴び15歳になったマルガリータは叔父である聖ローマ皇帝と結婚した。結婚生活は幸福であり、6人の子供を出産し、6回目の出産直後し死亡している。血族結婚の弊害で6人中成人したのは1人であった。日本でも7歳までは神の子とされた。病弱であったカルロス2世は39歳で崩御しスペイン ハプスブルグ家は断絶。ブルボン家が取って代わった。

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また、ブルボン朝に仕えたスペイン宮廷画家であったゴヤの描いた我が子を喰らうサルトゥヌス。狂気の末に我が子を次々に殺した鬼気迫る豊穣の神サルトゥヌスの老境の恐怖と狂気を描いた。大脳新皮質の萎縮が狂気を燻りだす。老いに対する漠然とした不安は普遍的だ。当時のスペイン首相ゴドイの自宅玄関に着衣のマハがかけられその後ろに裸のマハが隠れていた。宗教、倫理により女性の裸を描いた絵画は制限されていた同時代に隠しもたれていた。やり手の政治家であったゴドイは順調に出世したが当時の王妃との関係が噂となった。

同じくアンダルシア、マラガ出身のパブロ ピカソはラスメニーナスを題材にシュウルレアリズムで58枚の絵画を作成した。アンダルシアのedge effectで熟成、アンダルシアの太陽で情熱的な描写が完成した。彼は青、薔薇色、アフリカの時代を経て混沌成就した。戦闘を求め続け平穏の孤独に耐えられずピカソは恋愛を繰り返し狂気からの解放を彼女たちに求めた。

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心臓血管外科

2024.09.15 Sun 00:00